野球肘について ~内側上顆裂離骨折~

医療コラム

野球肘について ~内側上顆裂離骨折~

野球肘という病名は、野球をしていて肘に痛みがある場合の総称となっており、痛みの原因を指すものではありません。学童期に野球肘と診断された場合、原因としては骨に問題がない場合は靭帯の炎症や筋肉の疲労が多いです。骨や軟骨に原因がある場合は、上腕骨内側上顆裂離骨折や上腕骨小頭離断性骨軟骨炎が原因となっている場合があります。

上腕骨内側上顆裂離骨折って?

  • 今回は『上腕骨内側上顆裂離骨折』についてお話しします。

上腕骨内側上顆とは、手のひらを前に向けて下に腕を伸ばした際に、肘の脇腹側にポコッと出てきている骨のところです。裂離骨折とは、上腕と前腕をつなぐ靭帯や、筋肉が内側上顆に着いているので、投球などの負荷により亀裂が入り、そこから剥がれてしまう状態です。身長が伸びている最中は骨もまだ完成していません。内側上顆も小学校低学年ではレントゲンに写らないほど未熟な状態です。その為学童期では、靭帯や筋肉が傷つくよりも先に骨が傷ついてしまいます。

どうして裂離骨折してしまうの?

内側上顆裂離骨折の原因となるものは、投球過多によるオーバーワーク、身体・関節が硬いことによる肘関節への負担、肘関節へ負担のかかりやすい投球フォームなどが挙げられます。

 まず投球過多に関しては、投手や捕手をしている選手に多いです。近年1試合における投球制限が設けられるなど投球数に関する関心が高まっています。しかし、1試合における投球数は守れていても、土日の練習試合に連投や、県大会など過密スケジュールでの連投はまだまだ見受けられます。また、投手での登板後に捕手をするなども肘を故障する原因となります。対策としては土日連日の練習試合を入れないようにする、投手・捕手の育成人数を増やす、連投や投手・捕手の兼任を行わないようにすることです。指導者の考えが大切になる部分でもあります。

 身体・関節が硬いことによる肘関節への負担について説明します。まず股関節の硬さについてです。肘から遠く離れた股関節の硬さが肘関節に負担を掛けるとは想像しにくいと思います。股関節が硬いと一言にいっても、様々な方向の硬さがありそれぞれ特徴がありますが、簡単に説明すると、下半身の力を上半身に伝えられなくなるという点で肘関節への負担が大きくなります。よく言う『下半身が使えない』『手投げ』の状態になりやすいのです。

他に硬くなりやすい関節が肩関節です。肩関節のストレッチなどアフターケアを怠ると、投球の疲労により肩関節周囲の組織が硬くなっていきます。肩関節が硬くなると投球時に肘が上がりにくくなってしまいます。よく言う『肘が下がっている』状態です。すると投球時に肘が引っ張られ、肘内側に負担がかかることで裂離骨折を引きおこしてしまいます。

裂離骨折と診断されたら?

裂離骨折の状態により個人差はありますが、治療としては、まずは1カ月程度の投球禁止期間を設けます。動かしても痛みがないことも多いですが、投球を続けて骨折部位に負荷をかけてしまうと、身体が骨折の修復をやめてしまい、弱い組織で修復終了となり再発の原因になる為です。裂離部位の治癒具合にもよりますが、1か月後より投球を開始していきます。ネットスローから開始し、徐々に投球強度を高めていきます。野手での試合復帰(一塁手や外野手)は投球開始より約1か月、投手での試合復帰は約2カ月かかります。その間リハビリテーションを受けることをお勧めします。

リハビリって何するの?

当院でのリハビリをご紹介します。当院では野球リハビリという野球障害に特化したチームで担当します。裂離骨折と診断された場合に、まず全身の関節可動域や筋力に問題がないかチェックします。肩関節や股関節に硬さがある場合が多く、ストレッチ指導を行います。1か月の投球禁止期間中は、ストレッチの徹底、コーディネーショントレーニング(運動神経向上トレーニング)、投球に必要となる筋力のトレーニングなどを行います。投球が許可されると投球フォームの指導を行い、肘に負担がかかりやすいと言われているフォームの修正を行います。投球フォームをしっかりと指導されたことがあると答える子は1割程度しかいませんので、そこでフォームの基本を初めて知ったという事も多々あります。

 

 裂離骨折は骨が成長途中である為に外力に弱いことが原因となり、発症することが多いです。裂離骨折の治療を怠ってしまうと、その後の野球活動中の再発が多くなってしまいます。発症してしまった場合は目先のことだけでなく、将来のことを考え、ゆっくり、しっかり治すことが大事になるでしょう。

リハビリテーション課 理学療法士 髙橋慎吾

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